開設の経緯と講座の現状  
             
                                 講師  飯塚優子


 この講座は、財団法人北海道演劇財団のはたらきかけにより、1998年(平成10年)開講した。初年度の講師は平田修二(北海道演劇財団専務理事・事務局長)。2年目は平田と飯塚(当時、北海道演劇財団コミュニティアート担当職員)が分担して受け持ち、3年目からは飯塚が担当している。
 
 Art Management〜アートマネジメント(アーツ・マネジメント)が芸術文化関連用語として日本で一般化したのは、ここ10年ほどのことである。慶應義塾大学文学部に「アート・マネジメント講座」が開講したのは1991年(平成3年)。今年度で50回を重ねる「トヨタアートマネジメント講座」がスタートしたのは1996年(平成8年)である。

 日本でアート・マネジメントの役割が認識されるようになった直接のきっかけとして、二つのことが指摘されている。
@ バブル経済末期、全国津々浦々に巨費を投じた文化ホールが林立し、しかしその器に盛るべき文化の内容、文化を生み出す社会的基盤が、きわめて貧しいことが指摘されるようになった。
A 「心の時代」に対応する施策として、1996年(平成8年)文化庁が高度な舞台芸術を支援する補助制度「アーツプラン21」を創設。翌1997年(平成9年)には現代舞台芸術のための新国立劇場が開場した。
このように芸術文化をめぐる状況が、国がらみ大きく変動する中で、
  ホール、会館を運営する立場
  アーティストがより創造的に仕事できるシステムを考える立場
  芸術文化の社会的位置づけを考える立場
  アートを医療、教育、福祉、地域社会構築などに生かそうとする立場
その他、依拠する専門分野の異なる様々な場所から、芸術文化を社会的な財としてとらえなおす必要が生まれ、先進事例の紹介や関連分野を含む情報交換、学術的理論の確立、実践指導など、様々なレベル、様々な角度からのアートマネジメント研究が求められるようになった。現在では全国各地の大学に30をこえるアートマネジメント関連学科、講座があり、官民による様々な講座、セミナーも数多く開催されている。 

 当講座は、様々な学部、学科、学年の誰でもが受講できる全学共通科目であり、受講の目的、動機は、直接職業に結びつくものではなく、専門的研究対象でもない。漠然と面白そうとか、演劇を観る機会がありそう、修了者が面白いと言ったから、などである。過去3年間で、受講学生が最も大きな関心を寄せ、知的刺激を受けた、と回答した事柄は、
  視覚障害者による朗読劇グループとの交流(ガイドヘルプ体験、ブラインドウォーク体験等)
  現役俳優の体験談を聴く
  シアターゲーム体験、講座メンバーによる寸劇づくり
などであり、大学に入って初めて、このクラスで、友だちや仲間が出来たことが何より大きな収穫だった、
とする感想が多い。まさにその一事こそが、アートの社会的存在理由であるかもしれない、と感じさせるような
現代大学生の状況を、日常的に感じることができる。社会的体験とその手がかりが決定的に少ないのである。

  そこで当講座では、アートとは、マネジメントとは、その社会的位置付けは、システムは、歴史は、法制は、といった講義を最小限にとどめ、外部講師の導入や、講義枠外を含む自主的活動によって、見学、体験学習、ボランティア体験、社会的活動体験などを出来る限り盛り込みたいと考えている。
  演劇に限らず表現されたものに積極的に触れること
  創造活動の現場に身を置く機会を獲得すること
  自分の関心に応じて具体的に動くこと
これらを奨励し、うながし、豊富に情報を手渡すなかで、芸術表現による感動に出会い、それを通じて人と出会い、以って、演劇をはじめとする芸術文化がどのように人間社会に作用しているか、その一端なりとも実感することができれば、講義内容への理解が深まり、当講座修了後、それぞれの専門分野においても、自己と社会に根ざした仕事ができるのではないか、と希望している。
 なお、体験的学習、見学、ボランティア体験等においては、学内各課、有志、文泉会をはじめ、北海道演劇財団、地域老人クラブ、地域非営利団体等の多大の協力を得ている。

  このようなことから、講義時間内で収まりきれない活動や、きめ細かな情報提供を必要とする場面も多く、より確実、迅速な連絡体制をつくるため、受講者全員をつなぐメーリングリストを設けている。またこのホームページを通じて情報の共有をはかり、外部や地域の団体にも講座の考え方、意図を知っていただこうと考えている。
 
  さらに、現在の受講者と過去の履修者との交流も、可能な限り推進したいと思っている。現メンバーにとってOBは、仲間であると同時に集団を活性化するリーダー的存在として、OBにとっては、一度体験したことをもう一度、客観性を持ってたどることによって、ひとつ上の段階へと理解が深まる点で、双方にとって有意義である。